第10章 別れ
ズバリ、巻物だ。歴史の資料集とかにありそう。巻物は菱の白地に紫の梅の模様が施されているけど、この梅は五条家の家紋のはず。くるくる回すと表紙がついている。
「遺言書 X代当主 五条xxx」
へ?
見間違いじゃないかと思って、何度もまばたきする。遺言書!? 名を見るとそれは悟くんの曽祖父様にあたる方のお名前で、まさにこれは悟くんの婚約者が記されている遺言書のようだった。
――なんで、こんな大切なものがこんなところに?
五条家の遺言書は厳重に管理されている。あたしみたいな五条と関係のない人間には触れることも見ることも出来ないし、それ以前にそれがどこにあるのか、どんな形をしているのかすら知らされない、門外不出の書だ。
さっきの長老の話を思い出した。悟くんに話していた確認していた例のものってまさかこれ? 思わず巻物を持つ手が震える。
こんなものが、ひょいとあたしの前に現れるなんて思ってもみなかった。どうしよう。体全体がわななく。もちろんこれは見てはいけない。本家の人間しか知らない遺言書だ。あたしなんかが関わるものではない。そっと巻物をキャビネットの中に戻す。
でも……。
あたしは確信が欲しかった。五条家がこれほどまでに優しく温かく対応してくれるのはなぜなのか? それもここ一年、急に。この遺言にはその秘密が隠されてるんじゃないか? あたしの事が書かれてるんじゃないのかな?
――いいかな、見ても。
駄目に決まってるけど、自分自身に許しを乞う。誘惑に勝てずに巻物をもう一度手に取った。そこには良い事が書かれているような気がした。
心の迷いはあったけれど、見るなら見るで早くしないといけない。長老が来てしまうかもしれない。紐をほどき、恐る恐る開いてみる。