第10章 別れ
五条家のお庭は今、イチョウの木が黄金期を迎えていて、惚れ惚れするほど美しい。木々の葉の色付きもさることながら、あたしはイチョウの落ち葉の絨毯が大好きで、地面が真っ黄色に染まると、わぁーってよく駆け寄っていた。
懐かしいなぁって言いたいところだけど、イチョウの木を見て真っ先に思い出すのは悟くんのイタズラ。
悟くんはよく呪力で土に穴を開けていて、あたしはイチョウの木に駆け寄って行くと、ストンとイチョウの絨毯の中に落とされた。いわゆる落とし穴だ。あたしが落ちるのを見て笑ってた。ほんとに酷いよね。
あたしも悟くんの真似をして、呪力で穴を開けてみたんだけど、悟くんを誘導するんだけど、六眼であたしの落とし穴が見えちゃって、全然引っかからなくて、結局、自分の作った落とし穴に、自分で落ちる。
悟くんはそれが自分の作った落とし穴に落ちるよりも、2倍面白かったみたいで、馬鹿だよなって声出して笑ってた。
「ちゃんと見てねぇから落とし穴に落ちんだよ」
悟くんが何度かあたしに言ってた。ほんとにそうだね。悟くんはやっぱりいつだってあたしのことよく見てたと思うよ。
「もうそろそろわかる」
五条家の遺言に書かれている婚約者について、悟くんはこう答えた。あたしは、ひょっとしたら自分が婚約者なのかもしれないなんて、ポジティブ妄想に取り憑かれて、浮かれポンチになりながら今日も奥様のご用事に付いていく。