第9章 婚約者は誰?
~悟くんの話。
五条家の本家と分家が集って恒例のお盆の食事会が行われ、あたしは適度にお手伝いをして離れに戻る。
しばらくすると悟くんが離れに来て「相変わらず年寄りは、社交辞令好きだよなぁ」ってひとしきり愚痴をこぼす。お馴染みだ。あたしもいつものように悟くんの話を聞いてなだめる。
ここで和服で抱き合ったあの日が随分と前のように思える。初めて悟くんの事を好きなんだって感情を自覚した日。そんなあたし達は付き合ってそろそろ2年だ。
悟くんはひととおり喋って落ち着いたら部屋に戻るのかなと思ってたんだけど「着替え持って」って言ってあたしの手を取る。
「え? 着替え?」
「着物着たまま寝るつもり?」
「はい?」
「部屋つれてくつもりなんだけど」
「ちょ、ちょっと……」
「疲れてんの?」
「そうじゃないけど」
そりゃ、あたしも悟くんと一緒にいたいけど、まだ分家の方たちは全員お帰りになられたわけじゃない。悟くんの部屋に行くなんてそんなところ親戚の誰かに見られたら大問題でしょ!
奥様や当主に出くわさないとも限らない。露骨すぎる。抗議したけど、気にしすぎって悟くんはあたしを部屋まで連れていった。
大胆すぎない?
部屋に行って、少し話すと、そういう雰囲気になり、悟くんがあたしの着物に手をかける。帯締めをほどきながら耳元で言葉をかけられると、その息で体が火照りだす。
「着物姿って抱きたくなるよな」
「そんな事……思ってたの」
「男ってそんなもんだろ」
「悟くんだけでしょ」
「夕凪がそんなんだから仕方ねーだろ」
「そんなんって……」
「褒めてんだよ」
帯が緩んで崩れた着物の胸元に顔を寄せられキスを落とされる。瞬く間に帯や紐がしゅるしゅると解かれ、肌が触れ合う。重なり合う。
「また正月に着てよ」
「また脱がすんでしょ?」
「わかってんじゃん」
軽く笑いながら甘い言葉を言い合いながらあたし達はベッドに深く身を沈めた。