第8章 夜空
悟くん――
あたしは決して悟くんから気持ちが離れたわけじゃないんだ。夏油先輩が離反したみたいに違う道を歩み始めたわけじゃない。
気持ちが離れたのは、むしろ悟くんの方だよね? まだ好きだって言われたあの言葉で少し頭が混乱してる。
そうだ、婚約者が決まったって風の噂で流れてきた。おめでとう。お相手が誰なのかを聞く勇気があたしにはないけれど、でも遠くから今もあなたの幸せを祈ってる。五条家の幸せを願ってる。どんな時もあなたの事を想ってる。
もう二度と会う事はないと思うけど、もしすれ違うことがあったとしても知らない顔してて。悟くんには新しい人生があるだろうから。
ひとつだけいい? 実は初めてもらった誕生日プレゼントのネックレスをまだ付けてるの。外せないでいる。悟くんが言ってくれた"可愛い"のストックがあと数年分あるからそれまでは付けてていいかな?
"五条さんを信じて"
親友が残した言葉なのにあたしはそれを全うする事ができなかった。君の助けが欲しかったな、灰原。
悟くん、それでもあたしは……今もあなたの事を愛してる。あたしの好きはズッシリだから。
どんなに遠く離れたとしても、二度と会えないんだとしても、あなたがあたしの事を忘れてしまったとしても、ずっとあなたのことを思ってる。夜空を見上げて、この空の下にあなたがいるんだと、あの花火を思い出したりして、誰もいない隣にそっと頭をもたげてみたりする。
今でも好きだよ悟くん。
だけど…………バイバイ。