第8章 夜空
あたしが誘った花火大会覚えてる?
秋の夜空に輝いたたくさんの火花。綺麗だったよね。あんなにたくさんの花火を見たのは初めてだった。
あたしがあの日、花火大会に誘った理由は、灰原の事もあったけど本当の理由は、悟くんが心配だったから。
夏油先輩があんな風に急にいなくなっちゃって、心にぽっかり穴が空いちゃったんじゃないか、って。夏油先輩に新宿で会ったって言って高専に戻ってきたあの日、悟くんはすごく辛そうで……やるせなさに覆われた背中をしてたから。
きっとあなたはひとりでも大丈夫なんだろうけど、乗り越えれられるんだろうけど、もし、何かほんの少しでもつっかかるものがあるなら、その思いを吐き出せたらって、そういう場所があればなって思ったの。
あの花火を見ながら少しは悟くんは煩悶から解放された?
悟くん、ごめんね。
あの時ずっとそばにいるって断言したのに、あたしは悟くんから離れて行かないって誓ったのに、置き手紙だけ残して急にいなくなってごめんなさい。
あたしのこと、唯一の安心できる存在って、そんな風にまで言ってくれたのに。
親友だけじゃなく、あたしも急にいなくなるなんて、悟くんにそんな辛い思いを二度もさせてしまってごめんさい。
今になってほんの少しだけ夏油先輩の気持ちがわかるような気がするんだ。きっと何か守りたいものが心の中に生まれたんだろうなって。それを自分の生き方として選択したんだろうなって。
悟くんや高専が嫌になったわけじゃない。それを上回る何かがあったんだって。