第6章 キスの味
まさか、悟くんの身にこんな事が起きるなんて思ってもみなかった。悟くんは強いから、最強で特別な存在だから、そんな事あり得ないって思ってた。突然なんて、そんなのないって。
あの時、お母様は続けてあたしに話してくれた。お父様が亡くなった時、悲しくて辛かったけど、それでもお母様は自分の選んだ道を後悔していないって。なぜってそれは……
「最後に任務に送り出したあの日も好きってあの人に伝えられたから」
って。
あたしは、あたしは、いったい何をしてたの? お母様があたしを高専に送り出してくれたのは、悟くんがあたしのことを待ってるって、そう言ったからだ。
愛する人の側にいて、後悔のないように気持ちを伝えて、いつも想い合っていれるようにお母様はあたしを、お父様の唯一の形見のあたしを悟くんのもとに送り出してくれたのに。
何も言えてない。悟くんにあたし、なにひとつ言えてない。こんなに好きだって事も、理屈では気持ちが抑えられないくらいに愛してるって事も。
何やってたんだろ……
ただ泣き崩れて、放心状態のままベッドからずり落ちる。