第6章 キスの味
「なに? 今の音」
家入先輩と顔を見合わせて、扉を開けると夏油先輩が倒れ込んでいた。思わず息を呑む。瀕死状態だ。
それは医学の知識がさほどないあたしでも見てわかる。蒼白な顔面に制服に切り刻まれた大きな傷が数ヵ所。倒れ込んだきりピクリとも動かない。
おそらく自らの足でここに来たのではなく、保有している呪霊をなんとか操術して運ばせたのだろう。
何があったの!?
家入先輩に手伝ってと言われて夏油先輩を中に運ぶ。夏油先輩はひとりみたいだ。
……悟くんは?
悟くんはどうしたんだろう。
星漿体の護衛任務で、さっき沖縄から戻ってきて、高専内の結界に入ったんじゃないの?
天元様のところに星漿体を届けたんじゃなかったの?
どうして悟くんと一緒じゃないの?
一気にいろんな疑問が浮かび上がるけど、夏油先輩はとても口をきけるような状態じゃなくて、何一つわからない。
星漿体に懸賞金がかけられていたというのは聞いたけど、取り下げられている。何も起きようがない。
夏油先輩を襲った敵と今、悟くんは戦ってるのかな……悟くんには無下限があるから大丈夫だよね? 怪我することなんかないよね?
あたしはマイナス思考を必死で抑えて目の前の事態に対して冷静沈着になろうとする。けど、ここまで夏油先輩が重傷を負うなんて、やはり尋常じゃない。不穏な空気が漂う。
実は40分ほど前に胸に嫌な痛みが走った。気のせいだと思うことにしたんだけど、あたしの練り込んだ呪力が破壊されるような感覚。
悟くんの制服に縫いつけておいたお守り。ズタボロに切り裂かれたような気がした。でもこんな感覚はこれまで一度も経験した事がないしそんなわけない、と考えないようにした。
一抹の不安がよぎる。
とにかく夏油先輩の治癒が先決だ。家入先輩のそばについて言われた事を手伝った。夏油先輩から話を聞かないことには状況も何も掴めない。家入先輩が反転術式を施していく。