第2章 ただそれだけ
その頃、五条家の中では緊迫した空気が流れていて、悟くんは常に誰かと一緒にいる事が多くなった。
学校の行き帰りも車で、送り迎えに護衛がつく。あたしと遊ぶ事も多いからとお母様が口癖のように何度も言う。
「坊っちゃまから目を離さないで。何かあったらすぐに人を呼ぶのよ」
はっきり口には出さないが、それは陰りを帯びた感じ、例えば身の危険とか、命の危険とかそういった類の事なのだと小さいながら察する。
不安になって悟くんに「狙われてるの?」とたずねたら「別に大したことねーよ、雑魚どもが。かかってこいよ」って六眼を光らせ言葉を返してきた。
怖かった。嫌な予感がした。
あたしと悟くんは学年がひとつ違ったから、学校で常に悟くんを見張っていることは出来ない。
けど、その呪力量で悟くんの存在は感じ取れる。
校内はそんなに広くないからどの辺りにいるかは集中すればおぼろげにわかるし、悟くんが呪力を使えばもっと正確にその位置がわかる。
悟くんは無下限呪術を発動する事が出来るようになっていたから、もし何かあっても身は守れるし心配いらないとは言われていた。
でもそれは盲点でもあった。
――強制術式解除
術式を解除出来る呪具や術式というのが存在しているらしい。一定時間のみという制限があるものもあるとか。
悟くんのお父様、つまり五条家の当主が悟くんにお話しているのを耳にして知った。
とても危ないから警戒しなくてはいけないというのは、子供のあたしでもわかる。