第1章 出会い
「あいつ」
俺は指差して夕凪を遊び相手に指名する。術式を使わせてみたくて、今も着物に乗ったままの蛙の事を匂わすと、予想通り、いや、それ以上のものを見せてくれた。
俺はこの時、尊夕凪を選んだんだ。呪術を使って遊べるのはコイツだって。
――でも、本当は、ひょっとしたら、ほかの理由もあったのかもしれない。
チョウを追ってキョロキョロ動かす深く濃い緑の瞳は一度見たら目が離せなくなった。
俺の目が空のブルーならコイツは海みたいなグリーン。
目が合うとそのくりっとした目をぱちくりさせて、まるで洋室に飾ってある人形みてーだ。
何が気にいらねーのか、口をとんがらせてはいたけれど、ぷっくりと盛り上がったほっぺたは餅みてぇ。
栗みたいな色の髪が陽の光に照らされて眩しい。ひとことでいうと……可愛いって言葉になるのか、とにかく男とは違うなにか。
屋敷までの桜道を一緒に歩いていたら、間抜けなことにコケて俺の方によろけてきやがった。
手を握って支えてやると、ぎゅっと握り返してきて俺の手を頼って歩いてる。
ちらと見ると歩幅がすげー小さくて、まるで、か弱い生き物みたいだ。
さっき見せたあの呪力はなんだったんだ? 女はよくわからない。なぜか何も話せなくて、ただひたすらに歩いた。
――これから毎日コイツが見れるのか
そう思うと少し心が浮き足立つような、そんな気がしたような気もする。