第5章 いざ高専へ
逆ナンって言葉は今、家入先輩から初めて聞いた。悟くんはこれまでもモテたけど、こんな街で、しかもあんな年上の女の人からもナンパされるなんてこれまたびっくり。
夏油先輩もあたしの視線の先を見て悟くんに気づいたようだ。
「悟からこの手の話は聞いてないかい?」
「聞いてないです」
「あいつは、しょっちゅうだよ」
――しょっちゅう逆ナンされてる。
それを聞いてなんだか少し焦る。もし付き合ってるんなら、あたしが彼女ならこういう時、堂々と近寄るのかな? あたしの悟くんなんだから寄らないでって。
ハッ! なんて事言ってるの? "あたしの悟くん" て。五条家の次期当主に向かってなんて失礼な!
長年、使用人の娘として五条家で過ごしてきたあたしはそんな発想これまで一度もしたことなかった。何てこと考えてしまったんだろ……。
「五条は適当にあしらって戻ってくると思うから待ってな、じゃあな」って家入先輩と夏油先輩が去っていく。もう一件、寄る店があるらしい。
しばらくすると悟くんがポケットに手突っ込みながらこちらに向かって歩いてきた。
「あれ、傑と硝子いなくなったの? さっきまでいたよな?」
「悟くんが逆ナンされてる間に行っちゃった。それより、はやく買い物済ませて」
「なに怒ってんの? ヤキモチ?」
「……モチとかいうからお腹すいた」
「さっき食ったじゃん」
「スイーツが食べたいの」
あたしはパッと目に付いたクレープ屋さんを指差して悟くんを引っ張って行った。