第6章 素直 後編【※錆兎】
「ほら、濡れた服、寄こせ。」
錆兎は、濡れた隊服を火のそばに吊るし、自分も羽織と上の隊服を脱いで吊るした。
そして、持ってきていた手ぬぐいで濡れた髪を拭きながら、囲炉裏のそばに腰を落ち着ける。
その右斜め横に、陽華も座った。
そのまま二人は暫くの間、黙って囲炉裏の炎を見つめていたが、ふと錆兎が陽華の顔をちらっと見た。
(……気不味い。もっと会話して…って、思ってたけど、意識したら、何を話していいか、わからない。)
やはり陽華の前だと、調子が狂う。そんなことを考えながら、また陽華をちら見する。
すると一瞬だが、陽華が自分の腕を気にかけ、顔を歪めたのがわかった。
「…そう言えば、血が落ちてたな。ケガしたのか?」
「…え?うん、でも…ただのかすり傷だから…、」
「いいから、見せてみろ。」
強がる陽華に錆兎が近づき、傷を見せるように催促すると、陽華は渋々、掛けていた布地の外に腕を出した。
「結構、深く切ってるじゃないか。あの鬼にやられたのか?」
錆兎が問いかけると、陽華が小さく頷く。
錆兎は自分の荷物に戻り、中から何かの包み紙と布地、包帯を取り出すと、陽華に前に戻ってきた。
目の前に座り、包み紙を広げると、塗り薬が出てきた。
「……それ、選抜の時の…、」
陽華が気づいて尋ねると、錆兎も思い出したように頷いた。
「そっか、お前にあげたな。…効いただろ、あれ。」
錆兎が尋ねると、陽華がコクンと小さく頷いた。
確かに、無くなるまで塗り続けたが、最後の方は傷跡も薄く、目立たなくなるまでに回復した。
「あれは先生のお手製だったが、今回のは残念だけど、俺の手作りだ。
中々、先生の所には行けないから、作り方だけ教わって、今は自分で作ってる。でも、他の隊員にも好評だから、効き目は立証済みだ、安心しろ。」
そう明るく笑顔を向ける錆兎から、陽華が視線を反らす。すると、錆兎の腕にも、何かに擦られたような傷跡があるのに、気づいた。
「……錆兎も、怪我してるじゃない。」
陽華の言葉に、錆兎が腕の傷に目を向ける。滝に落ちた時、岩か何処かにぶつけた時の物だった。