第7章 被褐をきれども懐は玉のように美しい
「で、どう?何か参考にはなったかしら?」
「いえ…全く。」
…歯が立たなかった。私の前に立つ彼女の笑みはどこか含みを感じる。私が対抗する術を何も持たずあっさり負け、そしてそれを悔やむよりも唖然としてしまったことを身透かされているようだった。
ただ立ち尽くすことしかできない、驚愕し戦慄する私の肩にぽんと温かく柔らかい感触が不意に乗っかった。
「ま、当然だ。相手は一級呪術師だからな。……ただ、交流会で相手するやつにも一級呪術師はいる。それだけは覚えておけよ。」
私の肩に触れたのは真希さんだった。手も足も出なかった私を珍しく慰めてくれているのだろうか。何もできなかった悔しさが今更に込み上げ拳を握りしめる。
「はい…。」
ただ返事をすることしかできなかったが、私は今よりももっと強くなることを誓った。そんな時…。
"prrrrrrrrrr"
ふと、誰かの携帯が鳴る。誰のものだろう…と気になり軽く見渡すとどうやら狗巻先輩のお姉さんが携帯を耳に当てもしもし、と応答していた。…任務だろうか、こんな夜に依頼?
「……先に理不尽に振り回してきたのはそっちでしょう!!…もう、今から戻るからちょっと待ってて。…………はいはい、言われなくても急ぐわよ。」
声を荒げガミガミという言葉が似合うような口ぶりの彼女。しかしどこか嬉しそうに見える。任務、ではなさそうね?
「…………なんだか不思議な人。」
誰にも聞こえない小さな声でそっと呟く。思惑通り私のその声は誰にも聞こえなかったようで、電話を終えたであろう彼女が慌てて携帯をポケットに仕舞い込んでいた。
「ごめんなさい、ちょっと急用ができちゃったからまた今度ゆっくり話しましょう。また会いましょ!!」
なんてことを考えているうちに狗巻先輩のお姉さんは走り去ってしまった。
「…これが、一級呪術師。」
私もいつかあれくらい強くなれるのかしら。
…誰も、死なせないくらいに。