第2章 世の中と隔てるものはわたし之感じょう
淡い桃色と若い緑色が混ざった木を見て思った。
桜といえば入学や出会い、そのようなイメージがあるのにいざそのシーズンに突入する頃には葉桜になっているのはなぜだろう、と。
若葉は一向に散る気配がないのに先に咲いた淡い花びらは儚くひらひらと落ちていく。私の人生における始まりだという日に、春の終わりを感じた。
「もう自己紹介始まってるよ、いいの?君だけ入学早々ぼっちになっちゃうけど。」
桜を眺める私の背後から現れたその男は飄々としていて、初対面にも関わらずなぜかムカついた。
私が眉間に皺を寄せたことを気にも留めずに彼は話し続ける。
「てかあれ?荷物は?…いくら顔合わせだけだって言ってもさすがにちょっとくらいはあるんじゃないの〜?ほら、財布とかさ。女の子ならもっとたくさんいる物あるでしょ。」
貼り付けたような厭らしい笑みを浮かべる彼に少しイラついて、ムキになってしまった私は子供っぽく反論してしまった。
「…荷物ならあるわよ。
______"呼出"、財布の入った鞄」
先ほどまで手ぶらだった私の手元にどこからともなく通学用の鞄が現れる。中には財布や必要品が多数入っている。基本は手ぶら、必要な物はあとで取り出す。これが私にとっての当たり前だ。
「…なるほど、これが噂に聞く呪言師ってやつか。今呼び出した分は君が普段から使っている私物みたいだけど、それどうなってんの?呼び出しって言ってたけど他にもある感じ?」
そう言って彼は興味深そうに私が呼び出した鞄をまじまじと見つめる。わざわざ腰まで折り曲げて間近で私の鞄を見つめる彼を、初対面なのに馴れ馴れしいと感じ少し不快に思った。
なのであえて黙っていると、彼はしばらくしてまぁいいかと鞄から目を離してまた元の位置へと戻った。
「呪言師なんて本来は無口な生き物だしね。君の呪術については追々聞かせてもらうよ、どうせ修行のときに必要になる。…あ、言い忘れてたけど僕担任だから。よろしくね。僕の名前は………」
「______五条悟。」
「え、」
私が名前を呼んだその刹那だった。
距離を置いたはずの五条悟は私の目の前に現れた。
その距離わずか3センチ。先ほど彼が私の鞄を見つめていた距離よりも遥かに近い。
「___これは、聞くことが多そうだね。」
「名前を呼んだだけですよ、先生。」