第23章 生を授かりし一なるモノは九分の死を受ける
……治してもらった足で立ち上がり、両足に異常がないことを確認する。そしてタバコを咥える硝子さんの方を見た。
「なに?」
私の視線に気がついて、困ったように瞬きをする硝子さん。
硝子さんは、夏油さんがいるって知ったら3人でやり直したいって思うのかな…。
途絶えた未来、悟と夏油さんと硝子さん3人で笑う未来…。
「………硝子さん。過去を変えたいって、思うときってありますか。」
「突然だね。………………まぁ、そうだね。」
ないと言えば嘘になるかな。」
硝子さんの長い沈黙から、少なくとも変えたい過去があるんだということがわかった。それが随分と前の話なのかそれとも現状に至った過去なのかはわからない。
硝子さんは咥えていた煙草を口から離すと、先端を灰皿に押し付けた。ジリジリと煙草の火が消える音がする。
「けどそんなたらればな話したって仕方ないよ。どうにもこうにも、人間っていうのは先を見ることしかできないんだから。」
新しい煙草を手に取って火をつけながら硝子さんはそう言った。相変わらず淡々としていてどんなことを考えているのかはわからない。
「…そう、ですね。」
ただ、彼女の視線の先はどこか遠くを見ていてなんだか寂しそうだった。
硝子さんがすぅ…と息を吸うと新品の煙草に火がついて先が赤く燃えた。
「余計なこと考えてないで、どうやって五条と感動の再会するか考えときなよ。
もう明日でしょ。」
明日は、11月19日。
悟の封印を解く日だ。