第23章 生を授かりし一なるモノは九分の死を受ける
伏黒くんを呼び出すのに選んだ場所は、1年生の教室。
大人数は入らない、15帖ほどの教室。真ん中にポツンと立っている学校机と椅子は3つだけ。
黒板の前に聳える教卓の淵を指でなぞる。少し痛んだ教卓のボコボコした感覚が指に当たる。
懐かしい。
この状況下に取り残された教室は異様に綺麗に見えて、まるで何事もなかったように平和な雰囲気が漂っている。
けれどそんな穏やかな雰囲気は、椅子に腰掛けることはなく教室で立ち尽くした私と悠仁くん2人の張り詰めた空気に侵されて緊迫していた。
勉強机の隣に立つ悠仁くんの顔をゆっくり見据えた。彼も何かを言う事はなく静かに頷く。
すぅ…と、私が息を吸う音が教室に溶け込んだ。
「…領域展開、言言坐臥。
………"呼出"、伏黒恵。」
かくん、と悠仁くんは意識が消えた。
崩れ落ちる彼に慌てて駆け寄って、真っ白な床に彼の体が打たれないように受け止めて、そっと寝かせた。
ふぅ…と一息ついて、滲んだ汗を拭る。
きっと、汗をかいているのは今も呪力を消費し続けているのもあるだろう。
「……あとは、2人次第か。」
______。
___。
「……。」
そこは虎杖悠仁にとって見慣れた場所。伏黒恵にとっては初めて見る景色だった。
虎杖が宿儺と何度も言葉を交わしたその場所で伏黒は目を覚ます。
虎杖は伏黒の言葉を待った。
俯いたままの伏黒はその沈黙を破り、掠れた声で絞り出すように呟いた。
「もう、いいんだ。」
______。
「今の伏黒に生きろなんて言えない。」
虎杖悠仁は泣きそうな顔をして、震えた声でそう言った。