第21章 山のうえには常に蛇がひそみ勢いづいている
真人が言っていた、呼び出した対象に私の魂の残留があると。
さっきの考えと合わせると、私は一時的に自分の魂を切り分けることで呼び出したものを一時的に自分の所有物にして、それでこの無茶苦茶な術式を成り立たせていた。
相手の魂を呼び出すと同時に、自らの魂を切り分ける。
異端の呪言師とそうでない違いは、魂の形を生まれつき認識できていたかどうか…。
私はずっと、生まれた時から無意識に魂の形を認識していた…。だめだ、頭がくらくらする。
「考えは纏まったかい?」
深く考え込む私の目を覚ますように、声が聞こえた。夏油傑はいつの間にソファから離れ、目の前のローテーブルに立っていた。
彼が移動したことにすら気が付かず、まだ呆然とする私は少し揺れる視界に目頭を抑えた。
「………少し、考えることが多くて困ってます。」
「……じっくり考えるといいよ。ただ、そろそろ私を"元に戻さないと"呪力が切れるんじゃないかな?」
「……忘れてた、」
だから目眩が…。とんでもない事実に目眩がしたわけじゃなかったのね…。
それにしても、私の呪力がなくなることによく気がついたわね…。魂と体の関係についても夏油傑の質問がなければ気が付かなかったかもしれない…。もしかして、すべてわかっていて…?
目の前に立つ、黒い狐を私はただ見つめた。
「私の顔に何かついてるかな。」
「……………いいえ、ただ…。
あなたが呪詛師にならなかった世界を少しだけ想像したんですよ、夏油さん。」