第17章 愛にかわる苦しみと離別
「着いたぞ。」
久しぶりに訪れた実家。
呪術界から退くことを決めている我が家は他の呪術界で名を馳せる家系に比べれば随分と平凡だ。禪院のように膨大な組織があるわけでもなく、使用人もいない。
ただ祖先から受け継いだ領地と建物があるだけで、それ以外は至って平凡な家庭だ。
ただデカいだけの建物を前に、足が立ち止まる。私が敷地に入ることを躊躇っていると、パタパタと地面を少し引き摺るような足音が聞こえてきた。
「おかえりなさい!!」
母だった。
私を見て慌てたような顔をした母は、まじまじと上から下へと品定めするかのように観察すると少し安堵したかのように微笑んだ。母の目尻には皺が寄っていて、母も歳を重ねたのだと当たり前のことに気がついた。
最後に姿を見たのは高専に入学する直前だ。寮に入ってからは一度も顔を合わせていない。つまり5年ぶりの再会となるわけだ。
「…………ただいま。」
少しぶっきらぼうにそっぽを向いて、そう返事をした。母は怒ることも悲しむこともなくただ微笑み続けた。
そして、後ろにいたパンダをチラリと見ると深々とお辞儀をする。
この家の呪術師は私と棘。たった2人しか存在しない。
一歩、家に足を踏み入れると少しだけ昔を思い出した。