第16章 第16章 千の篇も一に律される
声が聞こえた先に私は慌てて駆けていく。静寂に包まれてしまった渋谷駅構内を進むと影が見えた。そう、彼は東堂葵。現状を少しだけ、変えられるかもしれない。
「東堂くん!!」
「マイバディ!!」
「相変わらず変な呼び方…。」
突き抜ける駅地下のコンクリートの廊下、私が彼の背中に呼びかけると、東堂葵は振り返り私の姿を見てニヤリと笑った。マイバディ…何度もやめてと言ったのだが東堂くんは聞き分けが悪く結局この呼び方が定着してしまった。
腑に落ちていないが私がそう呼ばれてる理由はそれなりに存在する。
…そんなことよりも私は目の前でボロボロになった後輩に目を向けた。
「…悠仁くん!!無事なの!?」
「…あぁ、大丈夫。さっき元気になったとこ。二次方程式の解の公式もう忘れちゃったけど。」
「そんなのまた覚えればいいのよ。」
悠仁くんは息をあげながらも、しっかりと目の前の敵を見据えている。よかった、さっき両面宿儺の気配を感じたから何かあったかと思ったけれど…。
悠仁くんが無事であることを確認すると、彼もまた一歩前進し東堂くんの横に並ぶと、身構えた。そして私も同じく彼が見据えた敵に目を向ける。
全身継ぎ接ぎの人間の姿をした呪霊。どうやら2人はこいつと戦闘中だったみたいね。
「………あなたは、9月ぶりかしら。」
「やぁ、また会えるなんて思ってもなかった。」
彼は無邪気にケラケラと笑った。こんなに不気味で無邪気な笑みを浮かべるやつなんて、他に見たことがない。私1人増えたとて、余裕だと言いたいみたい。
「あの時もう2度と会わないでって約束も取り付けておくべきだったかしら。」
「あは、やってみれば?でも君って俺と相性悪いよね?この前一方的にボコられたじゃん。」
「そうね、呪霊同士って助け合いって言葉を知らないもの。そうやって余裕になれるのも、
よくわかる。」
そして、私と東堂くんの居場所が入れ替わる。
2人の後ろに控えていた私は東堂くんと入れ替わり前線へ。
「は、君が前線に来てどうするの_____」
呪霊…いや、恐らく他の呪霊から真人と呼ばれていたそいつは、目の前に現れた私を見て油断をする。だが、その一瞬が命取りになる。
「"呼出"虎杖悠仁。」
目の前に天敵が突然現れるのだから。
そして彼から撃ち出されるのは、
______黒閃。