第3章 星はひかれど燎火をもとめる原いん
「いや〜助かったよ針。……って、針?…………あー、ちょっと可哀想なことさせちゃったかなぁ。」
五条先生、何か喋ってる。相変わらずニヤニヤしてて…なんか困ってる?
あ、そうだ…特級のこと、話さなきゃ…
なのに、何も………考えられないや………。
______。
私が目が覚めたときにはベッドの上だった。
見慣れた景色、自分の部屋が視界に広がる。
起き上がろうとすると寝起きの気だるさと疲れのせいで体が重たく感じた。それと同時に体のあちこちから痛みを感じで、小さな声で痛っ…とつぶやくとリビングから声がした。
「あ、目覚めた?ポケットに鍵入ってたから勝手に入ったよ〜。あとコーヒーいただいてまーす。」
立ち上がってゆっくりと声がする方へ向かうと、ソファに腰掛けて優雅にティータイムを楽しんでいる先生がいた。
「年頃の女の子の部屋に躊躇いもなく入る図々しさが半端ないな。」
「いや〜針はもう年頃終わってるでしょ。それにどっちかっていうと、いつもは呼び出してるの針の方じゃない?…なーんちゃって………って、針急に先生のことを殴ったらダメだよって教えたじゃ〜ん。忘れちゃった?」
気がついたら言葉よりさきに手が出ていた。無意識だからわざとじゃない。だからたぶん私は悪くないと思う。…てかそもそも当たってない。後ろから殴りかかったのに普通に避けられてしまった。
私がこいつの生徒になってから卒業した今日まで何度か殴りかかったことはあるけれど当たったことは一度もない。本当に大人気ない大人だと思う。
観念した私は、はぁ…と深くため息をついた。
「はいはい、ところでお忙しい五条先生がこんなところで"コーヒー"ブレイクなんて本当は暇なの?」
そして私の手元にコーヒーが現れる。…と同時に先生が飲んでいたコーヒーが消えた。すると先生は小さな声であっ、と言ってようやくこちらへ振り向いた。
「いや、ちょうど針に話が会って来たんだ。もちろん楽して帰りたかったのもあるけどね、まあ座りなよ。」
私の家なんだけどな…。我が物顔で自分が腰掛けているソファの隣をポンポンと叩く先生。呆れてもう何も言えない私はコーヒーを一口飲んでから隣に腰掛けた。…甘いな。