第14章 犬は吠えるもなき声は影にひそむ
「針。」
「なーに、悟。」
静かな夜だった。あまりにも静かで、その静けさに寂しさを煽られたのかもしれない。
ベッドの上、肌の温もりを感じるようにキミを抱きしめて、名前を呼んだ。
「僕のどこが好き?」
「な、いきなりどうしたの…。」
「……いいから。」
「……。」
数秒の沈黙。ほんの2,3秒だけなのにすごく長く感じた。けれど決して不快な時間ではない、温かな時間。
恥ずかしそうに俯くキミはきっとたくさん考え事をして、それからキミは困ったように微笑む。
「……全部持ってる人なのに、そうやってたまに寂しそうにするところ。」
「……情けないな。」
ああ、彼女には全て見抜かれていたのだと。少しだけ恥ずかしくなって、僕の顔を見られないように、彼女の顔を僕の胸に沈めるように強く抱きしめた。
かっこ悪い僕の部分をキミは、
「情けなくないよ。」
と優しく笑って、僕を抱きしめ返した。
そして、小さくいじらしく呟くのだ。
「私も同じ。」
と。
誰よりも重たいものを背負っているのに誰にも助けを求めず、察せられないよう振る舞うその姿が美しくも儚くて、
この人は他人には計りきれないほどの闇があるのだと思った。どれだけ寂しい思いをしているのだろうと。
______キミが、アナタが、その闇を打ち明けてくれた時、正直言うと嬉しかった。
誰かに助けを乞うことの難しさを知っているから。キミと、アナタと同じく、天才と崇められた自分もまた孤独を知っていたから。
キミの存在は、
アナタの存在は、
______孤独を埋めてくれる。独りで抗っていた姿はこんなにも美しい。
「…愛してるよ、針」
「私も、愛してる。」
______私にとって五条悟は、最愛の人。