第14章 犬は吠えるもなき声は影にひそむ
「…話し合いたい。」
先生は低く唸るように呟いた。
沈黙が破られるまで、どれほど時間が経っただろう。実際に流れている時間はとても些細なものなのだろうけど、私たちには長くゆっくりなものに感じた。
「今更何話し合うっていうの。時間でも巻き戻すつもり?」
明らかに沈み込んでいる先生を捲し立てるかのように私は言葉を投げかける。先生は相変わらず物音を立てず静かに口を開いた。
「……じゃあ、僕の独り言だ。それでいいから聞いてくれ。」
「………。」
夕暮れの妙な静寂は私たちをそのまま飲み込んでいく。
私は、先生の言葉に敢えて返事をしなかった。ここで返事をすれば先生のことを許したも同然な気がしたから。
そんな私の心境をきっと察したのか、先生はゆっくりと話し始めた。
「あいつは俺のことをよく知っているし、俺もあいつのことを知っている。」
先生は本当に独り言のように呟いた。布団を頭からかぶっていた私が聞き取るのに苦労するくらい。私は少しだけ布団から顔を出して先生の言葉に耳を傾ける。
「信頼してたんだ。互いに。」
「絶対に棘たちを殺さないと、信頼していた。」
「親友なんだ、唯一の。」
まるで一つ一つ丁寧に言葉を選んでいるかのように話す先生。いつもそんなことしないくせに。私に気を遣っているのか。
______親友という存在。
中学まで私は孤独だった。やれ神童だの天才だの少し勉学ができただけで、もてはやされて勝手に高嶺の花にされて、家に帰ると呪術界の落ちこぼれになり、天才として、落ちこぼれとして、どちらの居場所でも異端児扱いされた幼い私は孤独を味わった。
捻くれて捻くれて感情が捻じ曲がっている私に友達なんていなかった。人の好意が悪意に思えたから。
高専でも友達こそいれど、相手がどう思っているかなんてわからない。猪野は社交的だし私の他にも友人なんてたくさんいる。私はそのうちの1人に過ぎない。ふとした瞬間に私は未だに孤独を感じる。
だから、わからないんだ。
五条悟の気持ちが。