第28章 最愛　♪

11階の部屋を通気口から確認して匍匐前進で進んで行っていると、途中の部屋で人影らしいものが見えて、ハッと通気口の網目に顔を近づけた。


「あれは…」


目を凝らしてみると、人が2人倒れているように見えて、わたしは思わず通気口の柵を蹴破って部屋の中へと降りた。

見ると部屋の中に男が2人倒れている。

片方の男のそばにはジュラルミンケースが落ちており、その中には大量の札束が入っていた。


「つまりこの2人が取引相手…？」


わたしは倒れている男の上着ポケットやズボンのポケットを探ってみたが、データが入っているようなデバイスはひとつもなかった。

慌てて、零に無線を飛ばす。


「零？！今通気口から部屋に降りたんだけど、恐らく取引する予定だった2人が倒れてる！」

「なに？！」

「誰かが、わたしが来る前に来てデータを奪っていったのかも…」


そう言ってわたしは急いで部屋を出た。

わたしがもしデータを奪ったなら、まだ仲間がいるかもしれないからできるだけ暗くて入り組んでいる場所から外に出るはず…

そう考え、あたりを見渡すとホテルの機械室の扉が開いているのが見えた。

扉が開いてるということは、慌てて入った証拠だ。

まだ追いつく…


「零！今機械室にいる！追跡するから！」

「お、おい！ちょっと待って！」


わたしは零の静止を聞かずにゆっくりと機械室の中に入った。