【R18】You belong with me 【赤井秀一】
第23章 さよならとたった一言で
赤井さんの背にあった夕陽が、ゴンドラが動くにつれてズレて、赤井さんの顔がだんだん見えてくる。
赤井さんはわたしから目を逸らしたままそう言った。
別れる?
その言葉の意味を理解するのに30秒はかかった。
赤井さんは、表情ひとつ変えずに黙って窓の外を見てる。
「冗談でしょ…?」
意地悪言ってるだけでしょ?
そんな、一縷の望みにかけて笑ってみると、窓の外を見ていた赤井さんの目は、真っ直ぐわたしを捕らえた。
もう一度、同じ言葉がわたしから飛び出す。
「冗談だよね?」
「本気だ」
間髪入れずに、赤井さんはそう言った。
わたしの大好きなあの声で。
本気…?
ちょっと待ってよ…
本気で別れるって言ってるの?
「…どう…して?」
震える声で、かろうじて聞けたのがそれだけ。
そして、それがすべて。
なんで?どうして?
理由がひとつも思い当たらない。
「…俺には、やるべきことがある。
守るべき約束もある。
お前がそばにいると、無駄な労力を使わされ、挙句、前みたいに誘拐でもされては、たまったもんじゃ無い。
…邪魔なんだよ。
俺の仕事の邪魔だ。」
「邪魔って…」
そんなことを言われるなんて想像もしてなかったから、わたしは思わず笑ってしまう。
あのとき、わたしが攫われたのは確かに不注意だった。
けど、それで別れる?嘘でしょ…?
だってほんの数日前までは一緒に仲良く料理をして、お風呂に入って、いっぱい抱きしめてくれて、好きだって言ってくれたのに。
さっきだって、可愛いって言ってくれたのに。
たくさん、キスをして身体を重ねて、あの雷の夜、愛してるって言ってくれたのに。
全部片付いたら、一緒に住もうって言ってくれたのに。
どうして?
いつの間にか、ゴンドラは下に徐々に下がってきていて、赤井さんが続けて言った。
「俺の番号も消してもらって構わない。
…もう二度と、お前には会わない」
「…いやだ。別れたくない…」
震える声でそう言った。
こんな一方的な最後なの…?
わたし以外考えられないって言ってたじゃない…
まるで夢の中にいるようで、涙も上手に出てこない。
「決めたんだ。もう」
赤井さんの声はいつもと変わらない。
冷静で、動じない、大人な、わたしの大好きな声。