【R18】You belong with me 【赤井秀一】
第72章 黒く、暗く
ICUの前のアクリル板から中の様子を覗こうとするが、サラのベッドは奥の方にあるらしく、様子を見ることはできない。
力無く、そこに置いてあったベンチに腰掛け、俺は頭を抱えた。
俺は、サラが死にかけているというのに、そばで手を握ってやることも、頑張れと声をかけてやることも出来ないのか…
俺に出来るのは、数メートルも離れたこの場所から目を覚ますことを祈ること。
それしか出来ない。
どうしてあの時、サラを1人で行かせたんだ…
俺がついていれば。
俺が、怪我なんてしていなければ。
そんなどうしようもない後悔が襲い掛かり、ひたすらに頭を抱えながらサラの無事を祈った。
数時間が経過した頃、俺の隣に誰かが腰を下ろした。
横目で見ると、サラの処置を担当した女医が俺を見ながら言った。
「今度は、あなたの方が倒れますよ。
また入院するんですか?」
「…俺はどうなってもいい。
あいつが無事に目を覚ましてくれたらそれで」
ただ、それだけでいい。
その言葉を聞いて、萩原医師は笑った。
「彼女のこと、愛してるんですね。
わたしも、おかしいって思うんです。この決まり。
家族だからって、集中治療室に入った肉親を一度も見舞いに来ない人もいる。
あなたみたいに、家族じゃないのにただひたすらに無事を祈るひともいる。」
そう言いながら、やるせないような表情を見せたあと、微笑みながら俺を見た。
「主治医の藍沢先生は日本でも指折りの脳外科医。
目を覚ますことを信じて待ちましょう。
…まだ、ちゃんと心臓は動いているんだから。」
「…」
「医者は、死んだ人間を生き返らせることは出来ない。
けれど、生きてる人間は全力で治そうとします。
わたしたちを信じて、あなたもちゃんと休んでください」
そう言って、俺に毛布を渡した女医は、その場を立ち去った。
毛布を受け取ったはいいものの、眠る気なんかさらさらない俺は、膝にかけたまままたICUの方を祈るようにじっと見つめた。
目を覚ましてくれ…頼む…
目を覚ますまで予断を許さない。と言われたことが怖くてたまらない。
何度も何度も目を覚ましてくれと願ったが、気付けば朝が来て昼が過ぎ、丸一日経ってもサラが目を覚ますことはなかった。
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