第71章 GIN

ジェーンはもう闇に落ちた。
そして闇に落としたのは俺だ。

そう信じて疑わなかった俺に、ある夜ジェーンがこんなことを聞いてきた。


「ねぇ、ジン。
ジンは、この世界を抜けたいと思ったことある？」

「愚問だな。あるわけがない」

「…そうだよね」


そんな会話を交わしたこの夜が、俺がジェーンを抱いた最後の夜になった。

次の日、任務中の俺にかかってきたのは


「アニキ！ジェーンが裏切りやした！」


というウォッカの報告電話だった。

急いで現場へ向かうと、ジェーンが今まさに暗い海に飛び降りようとしていたところだ。

俺はあの時と全く同じことを思った。

殺さなければ。

色んなものを乗り越えてきた今の俺なら、あの女を何の躊躇いもなく殺せる

そう思い、銃をジェーンに向けた。

そして引き金指をかけてそれを引く一瞬


ジェーンの寝顔が俺の頭によぎり、俺の撃った弾丸は、ジェーンの心臓でも頭でもなく、肩口へと逸れた。

肩から血を噴き出しながら、ジェーンはゆっくりと真っ暗な海の中へ落ちていく。

わたしを撃ったの？

そんな顔をして、ジェーンは俺を見た。

俺は放った拳銃を持つ手を下にゆっくりと下げた。
殺し…きれなかったと自覚はあった。
だが、トドメを刺そうという気にはどうしてもなれない自分がいた。

きっとどこかで生きている。
もしもまたもう一度再会できたとしたら、今度こそ俺がこの手で葬ってやる。

そんなことを心に決めて、本当は期待していたのかもしれない。
運命的にまたジェーンと再会できることを。



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