第12章 好きなもの
「お客様、溶けてしまう前にどうぞお召し上がりください」
「と、溶けるのですか?!ありがとうございます!急いでいただきます!」
と杏寿郎が笑顔で親切な店員に頭を下げると、にこやかな笑顔を浮かべたままこれまた笑顔で2人を見ていた店員たちのもとへと下がって行った。
「?どうされたのでしょうか?あ!杏寿郎君、アイスクリンは溶けてしまうそうですよ!早く食べましょう!」
「フフッ、あぁ!いただくとするか!きっとアイスクリンは君の口に合うと思うぞ!」
パンケーキは溶けることがないので杏寿郎はとりあえず、そそくさとスプーンを握りしめて慎重にアイスクリンを掬いとり口に運ぶの行動と表情を一部始終観察する。
すると予想通り口に入れた瞬間にピクリと身体を震わせながら目を見開いてキラキラ輝かせるがお目見えした。
「んんーーっ!冷たくて口の中ですぐに溶けちゃいました!わぁ!幸せな甘さです」
いつの日か芋羊羹を初めて食べた時と同じ表情をするに思わず杏寿郎は目元を柔らかく細める。
「気に入ってもらえたようだな!ほら、溶けてしまう前に食べなさい。冷たいものは冷たいうちに食べるのが1番美味いぞ!」