第1章 ※月夜の軌跡 9章
クチュとわざと音を立ててやると、の体がピクリと跳ね、杏寿郎から離れようと胸元に当てていた手に力を入れるが、背中や頭をしっかり固定されているのでビクともしない。
「んぅーー!ん……」
閉じられていた瞼が開き、赫い潤んだ瞳が縋るように杏寿郎の瞳を見つめるが、それが更に杏寿郎の心を掻き乱していることを知る由もなく。
だが心的外傷を植え付けるのは気が引け、腕の力を緩めることはせずに唇を離した。
「怖いか?」
涙が滲んだ瞳をキュッと瞑り、は首をフルフルと左右に振った。
「その……驚いてしまって。音が……」
自分たちから発せられた聞いたことのない音に顔を真っ赤にする初心な反応に、杏寿郎は妖艶な笑みを浮かべ、額に軽く口付けを落とした。
「そうか。だが大丈夫だ、身を委ねてくれ」
間近で見る杏寿郎の妖艶な笑みはの思考能力を麻痺させ、返事をすることをせずに杏寿郎の下唇を自分の唇で軽く食み、チュと小さく控えめな音を鳴らした。
「こう……でしょうか?」
恥ずかしいながらも自然と適応しようとするの笑みはやはり妖艶で、杏寿郎の心臓を痛いほどに鷲掴みにする。