第9章 第25章 決戦と喪失 1812~1813ページ
に引っ張られながら杏寿郎に視線を戻すと怒っているでもなく哀れんでいるでもなく……あまり見たことのない静かな笑みを浮かべているだけだった。
杏寿郎は実弥が初めてと会った時から変わらず、目に入れても痛くないと言わんばかりにを可愛がり大切に守っていた。
それと相まって誰にも渡したくないと周りに伝えるように、頬を赤くするを胸に隠したり人前で恥ずかしげもなく口付けをする。
つまりに限り独占欲が強いのだ。
そんな杏寿郎は、きっとが笑顔で実弥を引っ張る姿を目にするのも複雑な気持ちなはず。
それでも笑顔で見守っているのは実弥の気持ちを知っているのと言うのもあるが、何よりの笑顔を曇らせたくないからだろう。
(どっちが年上か分かったもんじゃねぇなァ。これで終いにしねぇと)
皆の前に到着して手首を握るの力が弱まったのを期に、実弥はその手から手首をゆっくりと抜き出し背中に当てがって、杏寿郎へと小さな体を押してやった。
「お前の居場所に戻れ。煉獄がうずうずして待ってんぞ」
人の感情の機微に敏感なに気付かれぬよう、いつも通りを装って笑顔で見送る。
「……?はい!杏寿郎君は勿論ですが、実弥お兄さんも私の大切な方に違いありません。悲しくなったり辛くなった時、楽しい時や幸せな時もいらして下さい。あのお家でいつでも待っています」
まだ胸の痛みは消えそうにないが、杏寿郎の隣りだからこそ今の穏やかな笑顔があるのだと思うと少しだけ痛みが和らいだように思えた。