第8章 第26章 月と太陽(1874~1878ページ)
穏やかな道場内とはうって変わり、庭へ移動する際も庭へ移動して向かい合っている今も杏寿郎と実弥は張り詰めた空気を途切れさせてはいなかった。
「……先に言っとくが俺はアイツをどうこうしてぇなんて微塵も思っちゃいねェ。これからも妹って認識を変えるつもりはないからなァ」
その空気のまま紡がれた実弥の言葉を杏寿郎は口を挟むことなく、ただ静かに苛立ちの含まれた瞳を見つめて聞いている。
「だがあんな話聞かされて目の前でベタベタされっと無性に苛立つ。その憂さ晴らしに付き合えやァ」
実弥が手に握っていた木刀を構えてから、ようやく杏寿郎も動き出して同じように木刀を構え口を開いた。
「俺で憂さ晴らし出来るのならばいくらでも付き合おう。君が望まない限りにもこの事は伝えない。俺からすれば物凄く複雑な心境だがな!しかしあの子の愛らしさや優しさの破壊力はとてつもないので、君の気持ちは俺が1番よく分かる!」
決してふざけてもからかってもおらず至って真面目な表情で言っているのに、今の実弥にとっては苛立ちを募らせるばかりの言葉となってしまっている。
「ぜってェ伸してやる……歯ぁ食いしばっとけェ!」
杏寿郎が返事をする前に庭に激しい乾いた音が響き渡った。