第8章 第26章 月と太陽(1874~1878ページ)
何か合図があるわけでもないのに、2人は同時に足を動かし腰に仕舞われていた木刀を寸分たがわず抜き出した。
が舞う紫炎の舞は、女性特有の体のしなやかさや柔らかさを基調とした軽やかで滑らかな動きのもので、見ているだけで笑顔になれるような華やかさと美しさがある。
杏寿郎が舞う炎の舞は、杏寿郎をそのまま表現したかのような力強さや逞しさを基調としているにも関わらず、動きが洗練されており長年炎柱として鬼殺隊を導いてきた威厳を出しながらも流麗で見とれるほどに綺麗だ。
「あいつらスゲェな……一糸乱れぬって言葉、そのまんまじゃねぇかァ。どんだけ相手のこと考えて舞ってんだか……」
「舞だけじゃないですよ。手合わせも互いに本気なはずなのに、息ぴったりでなかなか決着つかないんですから……最終的には師範が勝ってさっきみたいに……師範代が少しむくれてます」
手合わせの度に悔しい思いをしているにさえ容赦ない杏寿郎が頭に浮かび、ずっと変わらない2人の関係性に実弥が笑みを零した。
「ハハッ、相変わらずだなァ。煉獄も……あんだけ自分を想いながら舞ってくれる女がいてくれりゃあ、さぞかし幸せだろうよ。見てみろよ、楽しくて幸せで仕方ねぇって顔してやがんぞォ」
門下生たちは2人の舞を瞳に映していたが、それを杏寿郎のみに切り替え……その後に実弥をチラと盗み見る。
杏寿郎の表情は実弥の言う通り、優しい笑みをたたえながらの動きを暖かく見守っている。
そして実弥は、ほんの少しそんな杏寿郎を羨ましそうに眺めていた。