第1章 本編
海外での生活や学業の事、私の大学卒業後の事。お互いが知らない数年の話をアルコール片手に語った。起業には驚いたというし、私も飛び級には驚いた事を伝えれば、真剣な目が飛んでくる。
「こっちでやり残してることがあったからな。それをやり遂げなきゃ俺は後悔する」
「そう…余程大事なことなんだね」
「あぁ」
「…うまくいくと良いね」
「そうだな」
「…」
「…それがなんなのか、聞いてくれねぇの?」
「…」
その瞳にデジャブを感じるのは気のせいか。はたまた私の願望が見せる幻覚か。どうして彼がやり残したことを自分と繋げられるのか。自意識過剰も甚だしいのだが、この瞳が"お前の事だ"と訴えているようで勘違いしてしまいそうになる。
だめだ。この男は人を魅了する力が強すぎる。じっと見つめられてしまうと抗うことを許されず、なんでもかんでも引き付けてしまう。
握られていないのに手が熱く、抱き締められてないのに体が締め付けられるような感覚に陥る。
深く座っていた椅子から身を起こして浅く掛け、向けられる眼差しは懇願するように話しかけてきた。
「なぁ。俺はを忘れたことは一日だってない。もう先生と生徒でもない」
「…」
「今、断わる理由としては俺を好きではないことくらいだよな?」
「…本気?」
「そうじゃなきゃ焦って飛び級で卒業したりしねぇよ」
「焦って?」
「誰かに取られたらって思うと、気が気でなかった。まぁそれらを振り切ってこっち向かせる自信はあったけどな」
「…ふはっ、凄い自信ね」
多くを語ることをしない彼が珍しく心内をしゃべっているかと思えば、最後は彼らしい自信の有り様に笑ってしまった。