第28章 ふたつの恋のシグナル(宗さにメイン)後編・その2※R18裏
一足先にアトリエに向かった薬研を追いかけるように須美佳を見送ったあと、宗三と香澄もアトリエに向かった。
アトリエに着くと香澄はさっそく油絵を描き始めるのだが、水彩画を少し早めに描き終えて片付けた後に油絵をすぐ描けるように準備していて正解だった。
デッサンの時も水彩画の時も自分で思ってるより時間が過ぎるのが早くて…時間を無駄にしたくない。
あたしの手に絵の具を付けたペンティングナイフを握りしめながらキャンバスに塗っていく。
下書きは要らない、必要ないと思った
あたしの中での未知の領域、自分に可能性があると言ってくれた左文字先生に、自分にどれだけの実力があるか試したくなったの
一度も描いた事のない横顔も今なら描けそうな気がしたから。
あたしは左文字先生の横顔を初めて真剣に見つめた…
そして今まで気がついていない事に気付かされた。
ふとした瞬間に影を落としたその物悲しげにも見えるその横顔を
そんな風にさせてる原因が知りたい
あたしが取り除ける事なら、なんでもするから
本当の左文字先生を見せて欲しいと
相手にされなくても、この想いが消える事はなくて
加速していく、好きだというこの気持ちは…
『左文字先生、描けた…』
ずっとモデルとして動かずに居た宗三は周りの様子を気にする事も出来ず、香澄の言葉でようやく時計を確認すると。
「思ったよりも早かったですね…
タイマーをかけ忘れてしまってたので結構過ぎると思ってましたが…」
『えっ!?そうなの?』
「貴方の集中力を切らしたくなかったんですよ…それに……これが僕の出来る最後の事ですし…?」
あっ……えっ……?…最後…ってナニ…?
……あたしに出来る事はたったコレだけだったの…?
左文字先生、あたしは知りたいんだよ……
何も言葉を発さずに無言でボーっと立ち尽くす香澄を見ていて、自分の言葉が引き金になったのを確信した宗三は、香澄の仕上がった絵を見ていて。
初めて構図で、下描きもせず…一発描きでここまで出来たのは彼女の成長ですかね…?
もう…我慢しなくてもいいですか…?
貴方に触れたいと思う…自分の欲求に…。