第1章 春の悪戯(くりさに)
『大倶利さん…今日のデート中止しませんか…?』
香澄からの突然の電話にビビる俺がいた。
感情を表に出すのが苦手な俺だが、香澄は逆に隠せないほど愛情を与えてくれるから安心しきっていたのか?…デートを計画してくれた本人から中止の知らせに肯定しか出来ない俺が居た…。
「あぁ…分かった、じゃあな…」
香澄に悟られるように平静を装い電話を切った…とは言え、実は出かける準備はしてしまっているがな…どうするかな…。
光忠に電話でもしてみるか…。
「あっ、伽羅ちゃん?どうしたんだい? 珍しいね…」
「いや…何でもない…」
「ふーん…、でも今日彼女ちゃんとデートって言ってなかったっけ? もう出る頃じゃないの?」
「今突然断りの電話が…
「えっ!? それでどうしたの!? 伽羅ちゃん…了承して電話切っちゃったとか…?」
「………五月蝿い」
(なんで分かったんだ…こいつ)
「折角僕がコーディネートした服装とか彼女ちゃん喜んでくれると思ったのに… しかも内緒で車の免許まで取って…今日だってレンタカー借りてるんでしょ?」
「まぁな…」
「もしかして僕の処に来るつもりだった? でも、理由も聞かないで了承する伽羅ちゃんを簡単には迎え入れないけどね??」
「はぁー……突然あいつのマンションに行っても迷惑にならないか…?」
「ならないから!! 行っておいで」
「分かった… 光忠…ありがとうな」
「僕に頼ってくれてありがとう… 思ってる事伝えておいで」
電話を切ると、自動車の鍵を手にして家を出る。
慣れない車で香澄のマンションの方向へ数分車を走らせる…。
駐車場に車を停めて、香澄の部屋のインターホンを押した。
『…えっえっ!?どうして大倶利さんが…』
「居るんだろ? ……開けろ」
『分かりました… ちょっとだけ待ってて下さい』
「――いや、待たない」
合鍵を使って、有無を言わさず香澄の部屋に入る。