第22章 ちいさな初恋と潮騒と(北谷菜さに)
それは私の幼い頃、十歳の記憶…
薄い栗色の直髪に光の反射で薄茶色の瞳は時々翠玉色に見えるから、人とは違うこの見た目を嫌がっていた私に両親が"こんな綺麗な海と一緒の色だよ"と自信を持たせたかったのだろう…。
家族で遊びに来た沖縄のエメラルドグリーンの海での出来事だった。
運動音痴で泳ぎが得意ではない私、それに引き換え運動神経が良くて泳ぎが得意な兄。
「香澄、早く来いよ」
『まってよ、お兄ちゃん!!』
「もう先に行くからな??」
『やだぁ……、おいていかないで』
浮き輪を大事に抱きしめながら兄と離れまいと駆け足で追いかける。
波は穏やかで足元は透けていて綺麗だ…その事に安心してしまった私を待ち受けていたのは…。
『………ここは??どこ……??』
ウトウトしていて気がつくと岸辺から遠く離れたところに海に漂ってる私、足元が見えない…周りを見渡しても一緒に居た兄は居なくて不安になり。
『おとうさぁん…おかあさんー、
おにいちゃんーー!!どこにいるの??
たすけて…コワイよ…』
このまま誰にも気づいてもらえない、
叫び声が波の音にかき消されてる気がして涙が溢れてくる。
そう思った時に私の声が聞こえたのか
聞き覚えのない声で返事がかえってきた。
「ありゃ??……そんなところでどうしたぁ??」
『……たすけてぇ……!!』
大声で叫びながら手を振った反動で身体が大きく揺れて浮き輪からツルッと離れてしまった。
くるしい…いきできない…こわい…
ジタバタさせても沈んでいく身体…
段々と意識が遠のいて行く…
そんな私の腕を持ち上げた長い髪の毛のシルエットだけが見えて、完全に意識が途切れた。