第2章 お風呂
「夏目くん、あのね、笑わないでね、聞いて欲しいんだけど…」
普段だったら絶対こんな事なんか頼まないけど今日ばかりはお手上げだ。
私がたどたどしくも彼に頼み込んでみると、彼は随分驚いたらしく時間が止まった様に固まってしまった。私がこんなお願いをしたのだから無理もない…のかな。
「那乃花ちゃん、いい加減入ってくれバ?」
「あとちょっと待って!!」
ドア越しから少し籠ったような夏目くんの声が聞こえてくる。ギュッと体に巻いたバスタオルをずっと握ったまま多分十数分かは経っているけど、未だに恥ずかしさで入る気になれない。
でもさすがに寒くなってきたし…と思ってる最中、ガラッとお風呂場の扉が開いた。
「もしかしてずっとその格好だったノ?風邪引いちゃうでショ」
「えっ、あ、ちょっっ!!」
「ほら、体冷たくなってル。元はと言えば那乃花ちゃんが友達とホラー番組見ちゃったから怖くて一人でお風呂入れない、って誘ってきたんでショ」
「ごめんなさい…」
「別に謝らなくてもいいんだヨ。こちらとしては大歓迎だかラ」
遠慮がちに湯船に浸かってみると彼はおかしそうに喉を使って笑い、そっと私の肩に手を伸ばす。そのまま自分の方に引き寄せて、夏目くんが私を後ろから抱き締めてるみたいな体制に気づいたらなっていた。
お風呂に入ってからまだ数分も経っていないのに既に逆上せそう。
「彼氏とお風呂入ってるだけなのに緊張し過ぎじゃなイ?もっとこっち寄りかかってもいいんだヨ」
「好きな人と入るからドキドキするんでしょ…」
「いつまでも初心だネェ〜。…というかバスタオル巻いてて気持ち悪くないノ?」
「へっ?」
夏目くんはバスタオル…を?バスタオルを巻いた体?どっちか分からないけどまぁどっちかに視線を落とす。
確かに濡れるからあんまり良い気はしないけどだからといって布なしはシンプルに恥ずかしい。そんな勇気を持ち合わせていれば彼とお風呂に毎日だって入れるし。