第40章 scene ■
上七軒という古風で風情のある街並みは、歩いているだけでとてもロマンチックで癒された。
指を絡ませて繋いでいる手に自然に力が入った。
「ねぇ…悟…」
「ん?」
「……なんでもない。」
「え、なに?」
「なんでも。」
「はあ?気になるじゃん。言ってよ」
「ホントになんでもないの。ただ…」
…名前を呼びたかっただけ。
そう小さく言うと、五条の小さく笑う声。
「レイ」
「ん?」
「呼びたかっただけ。」
2人同時に笑いあって、握っている手に同時に力が入った。
ここに今、こうして一緒に手を繋いで
並んで歩いていることが、
名前を呼びあっていることが、
不思議でならない。
誰が想像できただろう?こんな未来を。
あの頃は微塵も想像つかなかった。
一生自分は、一人の人のことだけを想い、
その人のためだけに生きていくのだと思っていた。
それが正しいと思っていたし、
心から望んでいたことだった。
でも今は……
別の人とこうしてる。