第36章 inequality 【特別編】
「…似ているというのは?」
「あー、なんか、優しい雰囲気とか、真面目で責任感強いところとかかな…。あ…加茂くんもとても大事なことを話してくれたし、私も……あのね、」
そう言ってレイは悩ましげな笑みで続けた。
「夏油傑は、私の大切な人だったの。
もうこの世にはいないけど、大好きな家族。」
「っ……」
加茂の驚いた表情は当然のものだった。
「今でも気持ちは変わらない。
……ずっと大好きなんだ。」
加茂は息を飲んだ。
あの夏油傑と…?!
「…だからあなたも呪霊操術を?」
「あー…血の繋がりはないけどね。
でも彼とは…いろんなことが繋がっている気がするんだ。
また絶対に会うの。」
レイは寂しげに笑ってペンダントを握った。
クマはフンっと鼻を鳴らした。
「だからね、私も今は…大切な人に報いたいんだ。
最期まで…自分を鍛え上げて、呪術師としての責務を全うしたい。
同じ目的を持つ者同士、頑張ろうね!加茂くん!」
「はい…。」
そんな笑顔も言葉も今まで向けられたことがなかった加茂は、どこか複雑な気持ちになりながらも自然と表情が緩み、ずっと冷え切っていた心には温かいものが流れた。
誰もの心を溶かすような不思議な力を持つこの女性は…きっとそれこそが、どんな術式よりも1番強い力なのではないかと思った。
「ねぇ、加茂くんって確かTOEIC900点目指してるんだよね?じゃあこれ聞いて!」
「?」
「Sometimes we only see how people are different from us. But if you look hard enough, you can see how much we’re all alike.
…これね、私の大好きなお姫様のセリフなんだ〜」
加茂は意味を理解したようで目を見開いた。
クマも理解しているようでどこかバカにしたように鼻を鳴らしている。
「にしても……発音が良いですね…」
「私も加茂くんみたいに英語の勉強が当時趣味だったんだ〜。あと小さい頃、近所に外国人のおばあさん住んでたから。それに私はプリンセスの名言は全部丸暗記しちゃってるの!」
「ええ?!」
「キモ。」
加茂とクマの全く違うリアクションを耳に、レイはどこか懐かしそうな目を遠くに向けていた。