第32章 indifference
真人によって呪霊にされた人間を、祓った(殺した)自分をなかなか受け止めきれない虎杖は、たくさんの遺体を前に茫然としている。
「…ナナミン……
俺は今日、人を殺したよ。
人は死ぬ。それは仕方ない。ならせめて正しく死んでほしい。そう思ってたんだ…だから引き金を引かせないことばかり考えてた。でも自分で引き金を引いてわかんなくなったんだ…
正しい死って…なに?」
七海は真顔のまま真っ直ぐ前を見据えて言った。
「そんなこと、私にだってわかりませんよ。
善人が安らかに…悪人が罰を受け死ぬことが正しいとしても、世の中の多くの人は善人でも悪人でもない。
死は万人の終着ですが、同じ死は存在しない。
それらを全て正しく導くというのはきっと苦しい。
私はおすすめしません。」
正直、自分も虎杖もかなり危なかった。
自分は真人の領域展開で死を覚悟した。
間一髪のところで、虎杖の中の宿儺の気まぐれで助かった。
呪術師はクソだ。
私はそう結論づけていた。
だから辞めた。というより、逃げた。
"呪術師は時に、仲間に“他人のために命を懸けること”を強要しなければならねーんだ。このことに疑問を感じるのなら、お前はそっちの道へ進んだ方がいい。だがブラック企業でも文句は言うなよシチサン野郎"
文句は言わなかった。今まで1度も。
高専を出てから寝ても醒めても金のことばかりを考えている。
呪いも他人も、金さえあれば無縁でいられる。
金 金 金 金 金 金 金
生き甲斐などというものとは無縁の人間だと思っていた。
思いたかった。
「ホントにいいんか?シチサン。」
「はい。あなたが戻ったのですから。」
「なら最期までやり遂げろよ。途中で投げ出すな?」
「えぇ、あなたもですよ。」
クマの柔らかい肉球と握手を交わした。