第29章 intention
「人は…忘れられた時に死ぬんだ。
僕は最強なわけじゃん?だから…たくさんの死を見ていかなくちゃならない。きっと、これから先も。」
七海は目を瞑った。
この人は…そうだ…
最強故の辛さがあまりにも多くのしかかっている。
レイさんとクマさんの死から始まり…
そして親友の死も…
「で、だからって、全ての死を請け負えないわけ。
ナナミンの言うように、僕は心まで最強なわけじゃないんだから。
それでも死は僕の前を通り過ぎていく…。
ただね……忘れちゃいけない、忘れられない死は、それでもあるんだ…」
いつも平気な顔をしていて、
平気であったことなんて、きっとこの人にはなかった。
七海はそう思って眉間に指を当てた。
それに比べ私は…
こうして逃げているだけか?
1番弱いのは…自分か…?
それともこれこそが強さなのか…?
「最強だから、いくら死が通り過ぎようと、僕は平気な顔はする。でも……七海のことも忘れないから安心して。」
そう言って五条はバンッと七海の肩に手を置いた。
「……死んでもあなたに忘れてもらえないとか…
…悪夢ですね…」
未だにこうして、自分のことを忘れずに何度も会いに来る五条悟という最強呪術師。
自分の中の思考が揺らぎつつあることから目を背けられなくなってくる。
死んでもそうなのか?
灰原をはじめ、あなたにとっても私にとっても大切だったあの二人を亡くし、夏油さんを亡くし…
それでも尚……私は…
「ははっ!悪夢じゃなくって光栄って言えよー!」
「……とにかくあなたは休養してください。」
"七海くんは…生かされた。
だから生きなきゃいけない。生きて、強くなって、次の誰かにまた命を引き継ぐ。そうやって、命は続いていくんだよ。
苦しくて、辛いこともあるけど…それが、生きてるということそのものでしょ。"
あの日の彼女の言葉をまた思い出す。
しかし私は…
生き甲斐などというものとは無縁の人間…
今は、まだ、そう思っている。