第29章 intention
夏油傑の目的は、祈本里香の力を掌握することだった。
しかし、乙骨による、自らを生贄とした呪力の制限解除によって致命傷を負った。
「遅かったじゃないか、悟…
私の家族たちは無事かい?」
「揃いも揃って逃げ果せたよ…
京都の方もお前の指示だろ。」
「まぁね。君と違って私は優しいんだ。
あの二人を私に殺られる前提で、乙骨の起爆剤として送り込んだな…」
「…そこは信用した。お前のような主義の人間は若い術師を理由もなく殺さないと…」
「くくっ…信用か……
まだ私にそんなものを残していたのか…?」
「…当たり前だろ……」
なぁ…
こんなことってあるかよ…
残酷すぎるだろ…
俺たちの青春って…
「傑にさ…言いたいことも謝りたいことも、すげーたくさんあったんだ。…なのにさ……」
不思議だ。
あれだけあったはずなのに
なのにさ…
「いざこうして2人きりになると…それがなんだったのか、なーんも思い出せねぇ。」
夏油は目を虚ろにして笑っている。
おびただしい血が体中から流れ、
想像を絶するほどの痛みと苦しみであろうことは分かるのに、それでも薄ら笑っている。
「君が私に謝る内容なんてないだろ…」
「あったんだ、いっぱい。」
夏油の耳を見て目を細める。
クリスタルのピアスだけは、あのころと変わらずずっとそこにあったように見える。
眩しいほどに輝くそれは、唯一、なんの穢れもない純潔なものに見えた。
「傑…お前のこと…ずっと思い出さないようにしてた…でも…無理だったよ。女々しくて気持ち悪ぃよな、俺。」
そう言って自嘲気味に笑った。
最後くらい素直になりたいと思った。