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walking proud~呪術廻戦~R18~

第19章 torture


部屋に運ぼうと五条さんが踵を返した時、レイさんの脱力した手から、何かが落ちたのが見えた。

私は急いで駆け寄ってそれを拾った。

稲妻型のピアス…

あれ?これはいつも夏油さんがしていたものじゃ…

夏油さんはいつも、大きいピアスの隣に、稲妻型のピアスをしていたことを知っている。

とにかく私はそれを届けようと五条さんに声をかけた。

振り返った五条さんの顔を見て、たじろいだ。
こんなに禍々しいオーラを纏っている彼は初めて見たからだ。
見開かれた眼光は血走っていて、唇は震えているのがわかった。

五条さんが抱えているレイさんは、ひっくひっくと嗚咽を漏らしていて、顔はぐしゃぐしゃに濡れていた。

「どうした…伊地知。」

「っ…あのこれ…落としました…」

五条さんは瞳だけ動かして私の手のひらを見下ろし、そして言った。

「俺、今 両手塞がりだからさ、少しの間預かっててくれるか」

かなり冷たく感情の籠っていない無機質な声。
本当に五条さんの声か?そしてこの人は五条さんなのか?
と思ってしまったのを覚えている。


「……はい。」

「悪いな。無くすなよ。」

くるりと踵を返して、すぐに去っていってしまった。


「伊地知。」

後ろから夜蛾先生に声をかけられてびくりとなる。

その後の夜蛾先生からの話に、私の耳は幻聴を聞くようになってしまったのか?
それ以前に、幻覚すらも見るようになってしまったのか?
と思ってしまったほど驚愕した。



そして、この時から私は理解した。


人生には、どうしても信じがたくとも残酷な、誰にも想像さえできぬ予期せぬ現実が湧いて降ってくるのだと。

それはいつでも突然で、決して忘れることのできない傷と記憶を、元々脆い人間の奥深くまで染み込ませるのだと。

いくら絶望的なものでもそれは現実であり、そして記憶として残る以上は、決して癒されることのない一生残る不治の傷なのだということを。

記憶は時に、人間にとって最も拷問に近い呪いであると。
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