第17章 existence■
「くはーあ、だとしても広すぎるっ!3人で足りるかこれぇ?」
「一応私の呪骸たちならいるけど…」
レイは腕いっぱいに持っている愛らしいぬいぐるみたちを上下に振った。
持ちきれない分は佐々木さんが抱えている。
まるで孫を抱いているかのように微笑ましく優しい雰囲気だ。
「あ〜とりあえずさぁ、傑、
クジラみたいな呪霊出せるー?」
「はぁ?」
「クジラに乗ってあそこまで一気に行こーぜ!それかイルカでもいいよ、前〜に水族館のショー見てからあれやりてーと思ってたんだよね!」
緊張感の欠片もなしにそんなことを言うので、真面目に言っているのかふざけて言っているのかよくわからなくなる。
夏油はみるみる眉間に皺を寄せ呆れたように言った。
「…君は私の呪霊操術を四次元ポケットかなにかと勘違いしているのか?」
「そうだよ悟。傑はドラえもんじゃないんだよ?」
「あーじゃあレイはドラミちゃん?
とりあえずあそこに行ける乗り物かなんか早く出してよ!」
「君はのび太くんなのか、悟。」
意味不明な言い合いをしている3人を朗らかな笑みで見守っていた佐々木も、さすがにしばらく経つと、オホンと咳払いした。
「…なにしろ広いですのでね。3人で手分けをしてください。あと、聞いていなさそうだったので一応もう一度言っておきますが、呪霊の詳細は把握できておりません。しかしここは入水自殺や水難事故が多発しているのです。なので人があまり寄り付かなくなりました。」
「人喰いサメはいないよな?!」
「いませんよ…。」
いるわけないじゃないかと言いたげな笑みを浮かべながら佐々木は帳を下ろした。
「とりあえず入口付近にのみ帳を下ろしました。
そして…こちらは私の呪力を含ませた特殊な方位磁石です。」
佐々木は、よいしょとレイの呪骸をなんとか片手で抱え直し、見た目はかなり普通の方位磁石を3人に渡した。
「では…ご武運を。」
そう少し不気味な笑みで言ってからレイの呪骸を解放した。