第15章 disaster
「遅かったな傑…
いや…早いほうか…。都内にいくつ盤星教の施設があるって話だもんな…」
「悟…だよな?」
そこにいたのは、天内理子の遺体を抱えて俯いている、ボロボロの五条。
そして、いつもの五条からは想像もつかないようなオーラを醸し出している。
「硝子には会えたんだな。」
「あぁ。治してもらった。問題ない。
いや…私に問題がなくても仕方がないな…」
「俺がしくった。お前は悪くない…」
五条が抱えている天内理子には白い布が被せられている。
その布から、ダラリと下がっている白い腕。
今、自分たちの周りを囲んでいるのは、天内理子の死を笑顔で拍手している盤星教の人間たちだ。
何十人、いや、100人以上はいそうだ。
なんとも言えない胸糞悪さが襲う。
ため息すらも出ない、重苦しく、奇妙な空気。
「…戻ろう」
「傑」
夏油が踵を返そうとしたその時、即座に呼び止められて振り返る。
「こいつら、殺すか?
今の俺なら多分何も感じない。」
五条の表情も声も、こんなに無機質なことは今までなかった。
夏油はそんな五条から目を逸らした。
「…いい。意味が無い。
見たところ、ここには一般教徒しかいない。こちらを知る主犯の人間はもう逃げた後だろう。
懸賞金と違って、もうこの状況は言い逃れできない。じき解体される」
「意味…ね…
それ本当に必要か?」
普段の五条からは想像もつかないくらいに冷たく静かな声だ。
「必要なことだ。とくに術師にはな…」
"たまに、なにもかもを終わらせたくなる時があんだよ"
"…死は万人に共通だ。誰にだっていつかは訪れる。その死をできる限り呪いによって理不尽を被ることの無いように非術師を助けていくのが私たちの役目だろう"
"お前はそれで満足なのかよ傑。"
あのときの言い合いを思い出してしまう。
どう捉え、どう感じ、どう考えていけば正解なんだ?
私は…
私がやってきたことは…本当に…
"はっ、意味わっかんね。
さすがは正義感の強い正論ボーイだね"
脳裏に反芻されたあの時の言葉を奥歯で噛み締めた。