第12章 nihilism
かわいいなぁとか言いながら手を振っている夏油を横目で見てから、五条は口を開いた。
「レイがさ…泣いたんだ」
夏油の手がピタリと止まり、こちらを向くのが分かったが、五条は彼女たちの方をボーッと見つめる。
「……なんだって?」
「泣いてたんだよ、レイが。」
夏油は手を下ろして短く息を吐いた。
向こうの方では水をかけ合ってはしゃいでいるレイと硝子がいて、その傍の岩に座って頬杖をついている冥冥がいる。
「なんでだと思う?」
「…なんでだ?」
「おーーーーい!!!2人ともこっち来いよーー!!!
船酔いなんてもう治っただろーーー!?」
硝子が大きな声で呼んできた。
「まーーだーーーー!!!」
五条が大声で返すと、硝子はなにやらぶつぶつ文句を言っているようだった。
「……で?」
「俺もよく分かんねぇんだけど、怖いんだってさ」
「怖い?」
「うん。今の幸せがいつか、壊れちまうんじゃないかって、それが怖いんだって、…そう言ってたぜ。」
「・・・」
2人して前を見つめたまま黙り込む。
クマが手と足で獣のように土を勢いよく掘り始め、その砂が盛大に憂憂にかかっている。
それを憂憂が怒ったようにクマに文句を言っているのが見え、2人同時に噴き出した。
「ーっはーウケる」
「ふっ…はは」
それを姉様にやったらしばきますよ!と叫んでいるのが微かに耳に届いた。