第12章 nihilism
「おい、こっち向けよ…」
そう言われてゆっくりと五条の方を向く。
五条はサングラスを取っていて、どこか真剣でいて悩ましいようななんとも言えない表情で瞬きもせずに見てくる。
「っ…そんなに人の泣き顔見ないでよ…
どーゆー趣味?」
「いや…初めて見たなと思って。」
そう言って、真顔で手を伸ばしてきた。
指が、目の縁に触れるか触れないかのところで、
五条はピタリと手を止めた。
涙を拭うか戸惑うかのように、
その手は少しだけ空中を浮遊して、
そしてまた引っ込んで行った。
だからレイは自分で涙を拭った。
「悲し涙じゃねーならよかった〜。
それよりさー、あさってのことはホントにレイに任せちゃっていいのー?」
いつの間にか、いつもの五条に戻っている。
夏油のベッドに身を放り投げて手と足を組んで天井を見上げだした。
「うん!任せといてよっ!
あ〜めちゃくちゃ楽しみだなぁ〜」
レイの計画と準備は実はもうとっくに整っていた。
夏休みに入ってから、本当に毎日ドキドキしている。
て言っても、元々2週間しかない夏休みの中でも、突然任務が発生することはある。
そもそも世間が夏休みというようなこういう時期だからこそ、呪霊による被害の発生率は格段に上がる。
すぐにそういった状況に対応できるように、学年ごとに夏休み期間をずらしたりしているのだが、相手が準1級以上の呪霊だと当然それに対応できる呪術師が出向く必要がある。
ということで今日は急遽、夏油と灰原とクマが任務へ行っているのだ。
灰原に関していえば、
夏油さんとクマさんにお供させてください!と連呼するばかりで止めようがなかった。
硝子はどこかへプラプラと飲みに行ってしまった。
TDCであんなに泥酔していたというのに…
あの夜、迎えに行ったときにはその状態に驚愕した。
何を何杯飲んだのか分からないほど長いレシートと高額の会計に、五条ですらため息を吐いていた。
クマは人形だからなのか、全然よゆーとか言ってまだ飲んでいた。
迎えに行ったときの、店員たちの心底ホッとした顔は忘れられない。