第9章 swear
「本当にもう帰るのー?もっとゆっくりして行けばいいのに…」
帰り際、夏油ママは心底残念そうにした。
もちろんまだまだいたいのは山々なのだが、高専の夏休みは長くはない。
結構予定を詰め込んでしまっているのだ。
「本当に楽しかったです。お料理も美味しかったし、お話も楽しくて…本当にいろいろとありがとうございました」
深く頭を下げると、棗も眉をひそめて泣きそうな声を出した。
「絶対また来てね?あとクマちゃんも!」
「おうっ!今度は五条の野郎も連れてきてやるからスマブラやろーぜ」
クマのその言葉に棗は嬉しそうに目を輝かせて何度もクマと握手を交わしていた。
「レイさん、息子を…傑をよろしく頼むね。
あまり五条くんと非行に走らせないように見張っててくれ。」
最強コンビのことが心底心配なのだろう。
夏油パパのその言葉には笑ってしまったが、大きく頷く。
「そうそうこれね、五条くんにもあげて。」
そう言って夏油ママは手作りのお菓子をたくさん持たせてくれた。
結局夏油自身はほぼ言葉を発さないまま早々に扉を開け外へ出ようとしていたのだが、後ろから棗に掴まれる。
「これは、お兄ちゃんが持っていて!」
渡してきたのはクマの描いた両親と妹の3人の絵。
「…は?なぜだ」
「いいから!部屋に飾ること!約束ね!」
どんな想いを込めて渡したのかはもちろんレイには分かったので夏油の代わりに返事をする。
「うん!約束する!」
夏油もゆっくりとそれを受け取り、少しだけ笑みを零した。
そしていつまでも寂しそうな顔をしている妹の頭をそっと撫でた。
「棗ちゃん、また来るからね」
「うん!次ん時は五条も連れてきてね!スマブラやりたいんだ!」
「もちろんっ、約束ね!」
何度も何度も約束を交わす。
約束は守るためにある。だから…
棗の胸元にキラリと光るペンダントに目を細める。
きっとまた会うと誓って。