第9章 swear
しばらくしてから呼ばれて、母親特製の昼食を食べさせてもらった。
クマの分も用意してくれた。
本来、クマはそこまで食事を必要としないし、あまり興味を示さない。
しかし用意してくれた手作りの食事がどれも美味しくて出されたものは全て平らげてしまった。
レイは料理というものをしたことがあまりないのでいつか教えてほしいな、なんて思ったり…
主婦というものをやってみたいと思ったり…
それが今隣にいる大好きな人との未来だったらなんて…
でもそんな未来は来ない気がしてならない。
いつも命を懸けている私たちは、
いつどこで命を落とすかはわからないし、
それに気がつけるのかさえも。
たまに道行く普通の高校生を見かけるが、
羨ましいと思ったことが、正直一瞬だけあった。
けれど、もし傑にあのとき出会わなかったとしても、絶対に普通の高校生活なんて送れていなかっただろう。
私はきっと今もあの施設に閉じ込められたままだった。
そして耐えきれなくて100%あそこで死んでいた。
もしくは呪霊に殺されていただろう。
「ねぇ、悟くんは元気なの?」
突然お母さんがデザートを出しながら聞いてきた。
「また悟の話か…あいつは相変わらずさ」
「あら、じゃあ元気いっぱいってことね!
今度連れていらっしゃいよ。あの子このデザートを前にものすごく褒めてくれたのよ〜」
そう言って出されたのはとても美味しそうなババロア。
2層になっていて、美しい色合いだ。
「わぁ〜すごくオシャレ〜美味しそう…いただきます」
「ふふ… レイちゃんはなんでも美味しいって言ってくれて嬉しいわ。ほら傑なんてなんにも言わないでしょう?」
苦笑い気味で夏油を見ると、まさに完全な無表情でそれを食べていた。
でも、分かる。
そうレイは思った。
さっきの棗についての話もそうだが、傑はとても家族を大切に思っているのだ。
あまり帰らないのだって、こちら側の世界のことに関心を示したり、危害を及ぼしたりしたくないのだろう。