第6章 Teddybear
「あ!起きた!こんにちは〜クマさん!」
灰原が瞬時に駆け寄ってきて顔を近づけた。
クマは一瞬固まったかと思えばベチンッと目の前の灰原を叩いた。
「っ!ったぁあっ!」
「こらクマ!何してるの!!」
「るっせぇんだよ、人が寝ている時に!」
「灰原くんは廊下で寝ているクマを拾って届けてくれたんだよ?!お礼を言うのが先でしょう!」
「そうだぞ、クマ助。後輩いじめは私が許さない」
クマは黙り込み、まるで両親に激しく叱られて丸くなった子供のようにしゅんとしだした。
「そうか…てめぇが灰原雄か。
ご苦労だったな。」
「クマ…それはお礼の言葉ではないよ…」
レイは呆れ返ったが、灰原は嬉しそうに目を輝かせた。
「僕の名前を知っててくれてるなんて感激だなぁ!
よろしくねクマさん!」
クマは1度見聞きしたものは絶対に忘れないという能力まで備わっている。
そのため、レイから聞いた高専にいる人の容姿と名前は、脳内で一致させているようだ。
「んで、てめぇが七海健人…だな。
確かデンマーク人のクォーターだとか。」
「そ…そんなことまで…」
七海の目が珍しく見開かれる。
「ごめんね、2人とも…
こんな感じなんだけど、どうか仲良くしてあげて」
苦笑い気味でレイは言ったが、思いのほか2人は強く頷いてくれた。
「クマ、君もなにか飲むかい?」
「うん、いちごミルク」
「「えっ……」」
灰原と七海の声が重なった。
「なんだ文句でもあんのか?」
実はいろいろな飲み物を試した結果、クマはいちごミルクが大のお気に入りなのだ。
夏油から渡されて嬉しそうにストローでちゅーちゅーと飲んでいる姿はもう愛らしい以外にない。
灰原と七海は心底興味深そうにずっとクマを凝視していた。