第14章 花爛漫
目覚めと同時に、体の重だるさが襲う。
だけどそれは、病がもたらすものではなく、夕暮れ時の狂おしいほどの熱情の洗礼の余韻によるものだとわかる。
衣服はいつの間にか着せられており、布団までかけられていて、たまらなく暖かい気持ちになる。
「おや?お目覚めかい?」
一瞬の虚無から、まるで待ち望んでいた玩具が届いた子供のような表情。
そして、わたしのもとに来ては、まるで宝物を扱うように触れて見つめてくる。
「菖蒲ちゃん。おはよう。
昨夜は少し無理をさせてしまったね。身体は辛くないかい?」
彼の大きな手がそっとわたしの頬を撫でる。
無意識にその大きな手に自分の手を重ねて、昨夜のことを思い返して密かに身もだえる。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「菖蒲ちゃんは、壊れやすくて酷く壊れてしまうと元には戻せないからね。
苦しかったらちゃんと言うんだよ」
掌に載せた花をうっかり揉みつぶすかように容易く命を奪えるという暗喩を明るい口調で言う。
それでも忠告するのは、衝動が抑えられないことへの開き直りのようにも思えた。
「しかし、君が乱れている姿は一段と美しくなったね。
俺は嬉しいよ…」
ニコニコと満足そうに笑い、肘をついた頬杖をついている。
「改めて仰らないでください…」
「照れていてもかわいいよ」
布団をかぶって恥ずかしさをしのぐのに、その上から布団ごと抱きしめて楽しそうにするのは、大型犬が子供のようにじゃれてくるのと少し似ていた。
童磨さんが教義の時間で代わりに松乃さんがいらっしゃったり、松乃さんが日の当たる時間に外に連れ出しでくださる以外の時間帯は、片時も離れず童磨さんが傍にいた。
一人で生活が出来るようになってからも、膳を運んでこられたときは瞳をキラキラさせながら食べさせようとしてくるし、
薬だって、未だに口移しで飲ませようと、目を離せば薬を手にして口に含もうとしている。
お風呂も抱きかかえられて一緒に入ろうとする。
それは本人曰く「愛する菖蒲ちゃんへの奉仕じゃないか」というけれど、おままごとのように楽しんでいるそれは甘さの過剰摂取を強いられているようなもの。