第28章 断章 浜辺の誘惑
一方、顔を真っ赤にして訴えるなずなを見た伏黒は全否定されたことに少なからずショックを受けていた。
無論彼女がこのラッシュガードを着たくないとかそういう意図で言ったことではないと思うが……
「あ、あの、伏黒くんの厚意はすごく嬉しいよ!で、でもそれを脱いだら、その、伏黒くんの上半身を覆うものがなくなっちゃうってことで……!えっと、だから、あの……」
顔に出したつもりは全くなかったが、伏黒のわずかな表情の変化を読み取ったのか、なずながしどろもどろになりながら理由を話してくれる。
“すごく嬉しい”
その一言にさっきまで広がっていた心のモヤは霧散した。
本当に自分はどうしようもなく彼女の言葉に一喜一憂してしまう。
緩んだ顔を見られたくなくて顔を逸らすと、今度はそっと手を重ねられた。
「真希先輩とか野薔薇ちゃんのこと、あ、あんまり、見てほしく……ないかな」
耳まで赤くして控えめに訴えるなずなにつられてこちらまで顔が熱くなる。
「っ、それは反則だ……!」
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暑い夏の日、
いつもとは違う恋人の姿に顔がずっと熱くてどうしようもなくて、心臓も早鐘を打ちっぱなし。
会話もどこかぎこちなくて……
でも、
2人ともどこか心地よさを感じながら、長いこと指を絡ませて手を繋ぎ合っていた。
―了―